腕立て伏せ(プッシュアップ)の効果|鍛えられる部位と回数・頻度の目安
腕立て伏せは大胸筋・上腕三頭筋・三角筋前部を中心に鍛える種目で、週2回・8週間続けた研究では胸と二の腕の筋肉の厚みが増えました(20歳前後の男子大学生を対象にしたデータです)。器具がいらず、自分の体重だけで胸と腕に負荷をかけられるので、自重トレーニングの基本種目のひとつに数えられます。
何回やればいいのか、毎日やったほうがいいのか。迷ったら、回数を増やすことより、今の体力に合った段階を選んで、フォームが崩れる手前まで繰り返すことを優先してください。
腕立て伏せで鍛えられる部位
主に働くのは大胸筋・上腕三頭筋・三角筋前部・前鋸筋
筋トレ経験のある健康な若い8人が5種類の腕立て伏せを行い、12の筋肉の働きを筋電図で測った研究があります。この測定で最も活動が大きかったのは、大胸筋、上腕三頭筋、前鋸筋、そして三角筋前部でした(出典: Marcolin et al., 2015(J Athl Train))。
大胸筋は胸の大きな筋肉で、上腕三頭筋は二の腕の裏側にあります。三角筋前部は肩の前側を覆う筋肉です。前鋸筋は肋骨の横に位置し、肩甲骨をしっかりと支える役割を果たしています。なお、著者自身はこの研究を、今後の確認が必要なパイロット研究(小規模な試験的研究)と位置づけています。
腹筋と背中は体をまっすぐ保つために働く
同じ研究では、腹直筋(お腹の正面)や外腹斜筋(わき腹)、脊柱起立筋(背中)の活動も測定されました。その結果、これらの筋肉も上げる局面と下ろす局面で活動の大きさは変わりましたが、その差は前鋸筋など腕や肩まわりの筋肉より小さめでした。
著者はこの結果について、腹筋や背中の筋肉は体を動かすために働いたというより、正しい姿勢を保つ役割(スタビライザー)を担ったためだと解釈しています。腕立て伏せは全身をまっすぐに維持する必要があるため、体幹の筋肉も同時に働きます。ただ、腹筋を主役にして鍛える種目ではありません。
腕を太くしたい人、二の腕を引き締めたい人の次の一手
腕立て伏せに慣れて、腕をもっと集中的に太くしたくなったらペットボトルなどを使った腕の筋トレメニューへ。二の腕のたるみが気になる人向けには、二の腕を引き締める現実的な方法をまとめています。ここからは腕立て伏せそのものに話を絞ります。
研究でわかっている腕立て伏せの効果
同じ負荷ならベンチプレスと同程度に筋肉が育った
負荷をそろえれば、腕立て伏せでもベンチプレスに近い効果が出たという研究があります。日本体育大学で行われたランダム化比較研究では、男子大学生18人(平均20.2歳)を2つのグループに分けました。一方はベンチプレス(1回持ち上げられる最大重量の40%の重さ)を行い、もう一方は膝をつくなど姿勢を調整してベンチプレスと同じ負荷に合わせた腕立て伏せを行いました(出典: Kikuchi & Nakazato, 2017(J Exerc Sci Fit))。
どちらのグループも週2回・8週間のペースで、1回3セットを限界まで行いました。その結果、腕立て伏せのグループでもベンチプレスの最大挙上重量が61.1kgから64.2kgに増え、大胸筋と上腕三頭筋の筋肉の厚みが有意に増加しました。著者は、ベンチプレスの40%1RMと同じ負荷にそろえた腕立て伏せは、8週間の筋肥大と筋力向上でベンチプレスと同程度に有効だったと結論しています。
ただし、伸びなかった部分もあります。上腕二頭筋(力こぶの筋肉)の厚みが増えたのはベンチプレスのグループのみでした。また、メディシンボール投げで測定したパワーはどちらのグループも変化していません。食事や日常の活動量を管理していない、18人だけの研究である点は割り引いて読んでください。
手で支えているのは体重の約3分の2
筋トレ経験のある男女20人(18〜30歳)を対象に、手の下に体重計を置いて測定した研究があります。
これによると、腕立て伏せで手が支える重さは、腕を伸ばした上の姿勢で体重の66%、体を下ろした姿勢で72%でした(出典: Alizadeh et al., 2020(J Sports Sci Med))。たとえば体重60kgの人なら、おおよそ40kg前後の重さを両腕と胸で押し上げている計算になります。
筋トレ全般では、している人ほど病気のリスクが低い
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の情報シートによると、筋トレをしている人はしていない人に比べ、総死亡と、心血管疾患・全がん・糖尿病・肺がんの発症リスクが、ほかの身体活動量に関係なく10〜17%低いとされています(出典: 厚生労働省 情報シート「筋力トレーニングについて」)。
厚労省は筋トレの例として腕立て伏せやスクワットなどの自重トレーニングも挙げています。ただし観察研究をまとめた数字なので、腕立て伏せを始めればリスクが10〜17%下がる、という読み方はできません。
「腕立て40回で心臓病リスク96%減」の正しい読み方
米国の男性消防士1,104人を約10年追跡したデータ
インターネット上で「腕立て伏せが40回できる人は心臓病のリスクが96%低い」という話題を目にすることがあります。これは、米国のインディアナ州の男性消防士1,104人(平均年齢39.6歳、平均BMI 28.7)を対象にした後ろ向きコホート研究が元になっています(出典: Yang et al., 2019(JAMA Network Open))。
この研究では、1分間に80回のメトロノームのリズムに合わせて腕立て伏せを行い、80回に達するか、リズムから3拍以上遅れるか、疲労などで止まるまで回数を数えました。その後約10年間追跡したところ、全体で37件の心血管イベント(心臓や血管の病気)が起きました。
「96%」は41回以上の群と10回以下の群の比較
注目された「96%」という数字は、腕立て伏せが41回以上できたグループと、0〜10回しかできなかったグループを比較した結果です。心血管イベントの発生率比は0.04(95%信頼区間0.01〜0.36)で、論文の本文にも「96%の減少」と書かれ、この数字が広まりました。ただしこれは年齢や体格を調整していない数字です。
しかも、約10年間の追跡で41回以上のグループに起きた心血管イベントは、わずか1件でした。
年齢と体格をそろえると差ははっきりしなくなる
年齢とBMI(体格指数)の影響を調整したモデルでは、41回以上のグループのハザード比は0.14(95%信頼区間0.02〜1.22、P=.07)となり、統計的に有意な差ではなくなりました。
著者自身も、この結果が「腕立て伏せの回数を心血管リスクの独立した予測因子として支持するものではない」と明記しています。また、対象が男性消防士であるため、女性や高齢者、運動習慣のない人には当てはまらない可能性も指摘しています。観察研究であるため、腕立て伏せの回数と病気の予防に因果関係があることも示せません。
40回という数字は今の体力を測る目安としては面白いものの、40回を目標にすれば心臓病が防げる、という話ではありません。
腕立て伏せの回数・セット・頻度の目安
回数は固定せず「できなくなるところまで」を基準にする
厚生労働省の情報シートでは、自宅で筋トレをする場合、無理せずに「できなくなるところまで行う」のが最も簡単な目安だとされています(出典: 厚生労働省 情報シート「筋力トレーニングについて」)。
回数を10回や20回と固定せず、正しいフォームを維持したまま、これ以上は体を持ち上げられない限界まで繰り返します。そこで止まった回数が、今の自分に合った回数です。
頻度は週2〜3日、セットは2〜3から
頻度について、厚生労働省は成人や高齢者に対して週2〜3日の筋力トレーニングを行うことを推奨しています。
何セット行うかについて公的な基準はありませんが、前述の日本体育大学の研究(Kikuchi & Nakazato, 2017)では1回につき3セットを行っていました。初心者の場合は、まずは2セットから始めて、体力がついてきたら3セットに増やしていくのが現実的な進め方です。
平均回数と比べなくていい理由
筋トレ経験のある若い男女を対象にした先ほどの研究(Alizadeh et al., 2020)で、メトロノームに合わせて限界まで腕立て伏せを行った回数が報告されています。1秒で体を上げ、1秒で下ろすペースで行った結果、男性の平均は25.6±5.2回、女性の平均は15.5±8.0回でした(出典: Alizadeh et al., 2020(J Sports Sci Med))。
普段から鍛えている18〜30歳の人でも、厳格なペースで行うとこの程度の回数で限界を迎えます。著者は、腕立て伏せは男性より女性にとって大きな負荷になる可能性があるとまとめています。ネット上の「何回できたらすごい」といった基準や他人の回数と比べる必要はありません。自分の記録が先週より1回でも伸びたかどうかに注目してください。
腕立て伏せができない人は段階を踏む
体重の大部分を腕で支えるため、もともと負荷が高い種目です。できない場合は、手をつく位置を高くして負荷を下げることから始めます。
壁に手をつく腕立てから始める
最初は立った状態で、壁に両手をついて行います。
- 壁から一歩ほど離れて立ち、肩幅よりやや広めに手をつきます。
- 頭からかかとまでを一直線に保ちます。
- ゆっくり肘を曲げて胸を壁に近づけ、また押し返します。
この動作が正しいフォームのまま楽に続けられるようになったら、次の段階に進みます。
台やベンチに手をつく斜め腕立て
写真: Herzi Pinki / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
次は、少し低い位置に手をつきます。丈夫なテーブルや公園のベンチ、階段などを利用します。手をつく位置が低くなるほど、体重が腕にかかって負荷が上がります。この段階でも、腰が落ちたりお尻が突き出たりしないように、全身をまっすぐ保ちます。
膝つき腕立てから床の腕立てへ
斜め腕立て伏せに慣れたら、床で膝をついた状態で行う腕立て伏せに挑戦します。膝を支点にすることで、つま先を支点にする通常の腕立て伏せよりも持ち上げる重さを軽くできます。前述の研究(Kikuchi & Nakazato, 2017)でも、負荷を細かく調整するために膝をつく姿勢が活用されていました。
膝つきでも正しいフォームのまま楽に続けられるようになったら、つま先をついた通常の腕立て伏せに移ります。段階を踏めば、フォームを崩さずに少しずつ負荷を上げられます。
効果を落とさないフォームのポイント
イラスト: Everkinetic / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)
手は肩の真下あたり、手幅を狭めると二の腕に効きやすい
手は肩の真下か、それよりわずかに外側につくのが基本です。筋電図を使った研究(Marcolin et al., 2015)では、胸の真ん中の下で両手の親指と人差し指をくっつける狭い手幅のほうが、肩幅の2倍に広げた手幅より上腕三頭筋と大胸筋の筋活動が大きかったと報告されています(出典: Marcolin et al., 2015(J Athl Train))。
頭からかかとまで一直線を保つ
動作中は、頭からかかとまでが一本の棒になったようにまっすぐな姿勢を維持します。疲れてくると腰が下に落ちたり、お尻が上に高く上がったりしがちです。姿勢が崩れ始めたら、それがそのセットの限界です。無理に回数を重ねず、そこでセットを終えて休みます。
下ろすときに吸い、押すときに吐く
厚生労働省の筋トレ情報シートは、血圧の急激な上昇を抑えるために息をこらえないよう注意を促しています(出典: 厚生労働省 情報シート「筋力トレーニングについて」)。体を下ろすときに息を吸い、地面を押し返すときに息を吐くリズムを意識してください。
手首・肩・腰が痛むときはやめる
厚生労働省の「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」では、関節や筋肉の強い痛み、胸痛、動悸、めまいやふらつき、冷や汗、いつもと違う強い疲れなどの異変を感じたら、直ちに運動を中止するよう呼びかけています(出典: 厚生労働省 情報シート「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」)。
高血圧や糖尿病などの持病がある人、運動で悪くなる関節や腰の不調がある人、薬を飲んでいる人は、始める前に自分の状態を確かめ、必要なら医師に相談してください。手首が痛くなりやすい人は、指先を少し外側に向けたり、厚手のマットを敷いたりすると楽になることがあります。それでも痛みが続いたり繰り返したりする場合は、腕立て伏せを休んで医療機関を受診してください。
腕立て伏せは毎日やっていい?続けるための考え方
厚労省の推奨は週2〜3日と休息日
厚生労働省の情報シートは筋トレを週2〜3日とし、休息日を設けるように書いています(出典: 厚生労働省 情報シート「筋力トレーニングについて」)。また、筋トレの時間が長くなりすぎると逆効果となる可能性も示されており、やりすぎには注意が必要です。
筋肉は鍛えたあと、休んでいる間に回復します。そのため、1日やったら1〜2日は休むというペースが基本になります。
毎日動きたいなら部位を分ける
それでも毎日体を動かしたい場合は、筋トレを毎日行う場合の部位の分け方を参考にしてください。たとえば、今日は上半身の腕立て伏せ、明日はスクワットで下半身というように、日によって鍛える場所を交互に変えることで、各部位に十分な休息を与えながら自重トレーニングの習慣を維持できます。
筋肉痛が強い日、やりすぎのサイン
胸や腕に強い筋肉痛が残っている日は、まだ筋肉が回復していないサインです。筋肉痛のときの判断基準に従い、痛みが引くまでその部位のトレーニングは休んでください。
腕立て伏せは、自分の体重と畳一枚ほどのスペースがあれば始められます。まずは今週2日、壁に手をつく段階でも膝をつく段階でもかまわないので、自分の段階でフォームが崩れる手前までやってみてください。
よくある質問
- 腕立て伏せの効果はいつから出ますか?
- 男子大学生18人の研究では、週2回・3セットを限界まで行う方法を8週間続けたあと、胸と二の腕の筋肉の厚みが増えていました。測ったのは開始前と8週間後だけなので、何週目から変わるかまではわかりません。まずは2ヶ月続けて、回数やフォームの変化を確かめてみてください。
- 腕立て伏せは毎日やってもいいですか?
- 厚生労働省は筋力トレーニングを週2〜3日行い、休息日を設けることを推奨しています。毎日やりたい場合は、下半身のメニューと日を分けるなど、同じ部位を連続して酷使しない工夫が必要です。
- 腕立て伏せが1回もできないときはどうすればいいですか?
- まずは立ったまま壁に手をついて押し返す動きから始めてください。慣れてきたら台やベンチを使った斜めの腕立て伏せ、次に膝をついた腕立て伏せと、少しずつ手をつく位置を低くして負荷を上げていきます。